増えぬ特定技能取得者 悪質企業排除へ企業連合体創設
2020年11月05日
特定技能が始まったのは昨年4月。政府は令和6年度までに34万5千人の外国人労働者を受け入れる予定だ。初年度は最大4万7500人を見込んでいたが、3987人と悲惨な結果に終わった。直近でも約6千人にとどまる。
外食や介護など特定技能の対象14業種は、人々の生活に直結しながら日本人が集まらず人手不足が深刻化している。それだけに特定技能人材が今後の日本で重要な役割を果たすと期待される。にもかかわらず、1年目は低調に終わった。
こうした現状を打開するため、海外の送り出し機関や日本での受け入れや支援を担う企業が団結し、企業連合体「特定技能受入定着促進プラットフォーム」を創設した。
9月30日に厚生労働省で開かれた記者会見で、プラットフォーム創設者で人材派遣会社フォースバレー・コンシェルジュ(東京都千代田区)の柴崎洋平社長は「深刻化する人手不足問題にオールジャパンで対応しクリーンな形で解決する」と熱弁を振るった。
会見中、柴崎氏は「クリーン」という言葉を何度も発した。同省が監督指導した技能実習実施者の70%で労働基準関係法違反が認められ、国際社会からも批判を受けているからだ。
単純労働の実質的な受け皿となっている技能実習は、少なからぬ企業で劣悪な労働環境など待遇の悪さやコンプライアンス(法令順守)違反から逃亡や失踪などの問題が発生。地域コミュニティーにもなじめず、日本を信頼できずに母国に帰る実習生が相次いだ。言葉の壁もあって、今や「選ばれる国」ではなくなったといえる。
柴崎氏は「日本を働く場として選んでくれた外国人が日本を嫌いになるという技能実習のスキームは廃止して、特定技能が補えばいい」と指摘する。このためプラットフォームでは、国内外の悪質なブローカーや受け入れ企業を徹底排除。「クリーンな企業しか紹介しない」ことで特定技能人材の受け入れ・定着を図り、長く暮らせる多文化共生社会をつくる。
ただ特定技能人材の受け入れが進まないのは設計の問題もある。積極的に受け入れようというメリットに乏しいからだ。技能実習では不可だった同業種内の転職が認められ、最低賃金で済んだ給与も「日本人と同等以上」と規定された。生活支援も義務づけられた。企業にとって賃金水準が低く転職リスクもない技能実習の方が受け入れやすいというわけだ。
「特定技能人材は転職の権利を持つので定着の仕組みを作る必要がある」。こう話すのは、介護事業などを手がける桜十字グループ(熊本市)の小林慎哉海外人材事業部長。
慢性的に人手不足に悩む業界だけに外国人材を戦力としてフル活用。介護では技能実習生2人と特定技能人材1人が就業中で「安定的に働き、定着してくれるので助かっている」(夏井英樹ホスピタルメント事業部長)。このほか、45人の内定者が新型コロナウイルスの影響により入国待ちで、来年度は35人ほどの内定を出したいという。
一方で離職者を出さないため、給与に加え、生活のしやすさを気にする外国人への生活支援に力を入れおり、日本人も目指す国家資格「介護福祉士」の取得をサポートする。家族帯同や長期在留の道が開けるからだ。
外国人専門の生活支援企業グローバルトラストネットワークス(東京都豊島区)もプラットフォームに参加した。後藤裕幸社長は「長く働きたいと思わせる企業努力が必要で、われわれが手助けする」という。
「外国人社員の受け入れは初めて」「生活サポートまで対応できない」といった企業の悩みに365日24時間体制で応え、外国人従業員の不安や相談に母国語で徹底的に寄り添う。離職を防ぐためだ。
プラットフォームには外国人材活用のプロが集まった。技能実習生の失踪や不法就労などで失った日本ブランドを取り戻すため、専門の力を生かし、世界一クリーンなブルーカラースキームを創る。柴崎氏は「将来的には特定技能の来日者の10~20%をサポートしたい」と強調。桜十字の小林氏は「受け入れ側として、クリーンな企業のモデルケースになる」と意気込む
産経新聞より抜粋